イングリッシュホルンとオーボエの違いはここで分かる|見た目・音域・リードのポイント

オーボエとイングリッシュホルンは、オーケストラの中で美しい旋律を奏でる木管楽器ですが、一見すると似ているため違いが分かりにくいと感じる方も多いでしょう。どちらもダブルリード楽器という共通点を持ちながら、音色や役割には大きな違いがあります。それぞれの特徴を正しく知ることで、音楽を聴く楽しみや演奏の深みがより一層広がります。

目次

まず押さえる イングリッシュホルンとオーボエの違い

イングリッシュホルンとオーボエの最も大きな違いは、楽器のサイズと音の高さです。イングリッシュホルンはオーボエよりも一回り大きく、音域が完全5度低くなっています。視覚的には、楽器の先端にある「ベル」と呼ばれる部分が、オーボエは朝顔のように開いているのに対し、イングリッシュホルンは丸く膨らんだ「電球型」をしているのが最大の特徴です。

音域のおおまかな差

オーボエとイングリッシュホルンの音域の差は、楽器自体の長さの違いから生まれます。オーボエは「C管(ハ長調)」の楽器で、華やかで高い音域を得意としています。一方で、イングリッシュホルンは「F管(ヘ長調)」の移調楽器です。
楽譜上の指使いは同じですが、実際に出る音はイングリッシュホルンのほうが低くなります。具体的には、オーボエの最低音が中央のド(C4)付近であるのに対し、イングリッシュホルンはその下のファ(F3)まで出すことが可能です。この低音側の余裕が、深みのある音楽表現を支えています。

音色の第一印象

音色の印象を一言で表すと、オーボエは「輝かしく牧歌的」、イングリッシュホルンは「哀愁を帯びた豊かさ」と言えます。オーボエは音が真っ直ぐに飛びやすく、オーケストラ全体の中でも埋もれない芯の強さを持っています。
それに対してイングリッシュホルンは、管体が太くベルが丸いため、音がまろやかに響きます。どこか物悲しく、心に染み入るような独特の質感があり、聴く人に落ち着いた印象を与えます。この音色の違いが、それぞれの楽器に割り振られるソロパートの性格を決定づけています。

外観で分かる特徴

パッと見てすぐに見分けるポイントは2つあります。1つ目は先ほども触れたベルの形状です。オーボエのベルは直線的に広がっていますが、イングリッシュホルンは「梨型」や「電球型」と呼ばれる丸みを帯びた形をしています。
2つ目は、リードを差し込む部分の構造です。オーボエは本体の穴に直接リードを差し込みますが、イングリッシュホルンは「ボーカル」と呼ばれる緩やかに曲がった金属製の管を介してリードを取り付けます。この金属管があるおかげで、大きな楽器でも無理のない姿勢で構えることができます。

リードの基本的な差

どちらも2枚のケーンを合わせたダブルリードを使用しますが、その大きさは明らかに異なります。イングリッシュホルンのリードは、オーボエのものよりも幅が広く、全体的に大ぶりな作りになっています。
リードが大きい分、振動させるために必要な息のコントロールも変わってきます。一般的にイングリッシュホルンのリードは、オーボエよりも少し柔軟な反応を求められることが多く、ボーカルとの相性も重要です。形状のわずかな違いが、あの独特の深みのある音色を生み出す鍵となっています。

演奏時の扱いやすさ

操作性については、指使い(運指)自体はほぼ共通しているため、オーボエ奏者がイングリッシュホルンに持ち替えて演奏することは珍しくありません。しかし、物理的な重さと長さが異なるため、体への負担は変わります。
イングリッシュホルンは重量があるため、多くの奏者がストラップを使用して首や肩で楽器を支えます。また、指の穴の間隔もオーボエより少し広いため、手の小さい方は慣れるまで少し時間がかかるかもしれません。基本的にはオーボエの技術を応用できますが、楽器の重さに対するホールド感には慣れが必要です。

楽曲での使われ方

オーボエはオーケストラの「顔」として、華やかな主旋律やチューニングの基準音を担当することが多い楽器です。一方、イングリッシュホルンは「特別な場面での語り手」として登場することがよくあります。
有名な例では、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の第2楽章にある「遠き山に日は落ちて」のメロディが挙げられます。あの郷愁を誘うソロは、イングリッシュホルンならではの音色でなければ表現できません。このように、叙情的な場面や内省的なソロパートでその真価を発揮します。

外見で見抜く 形と構造の違い

外見上の違いを詳細に観察すると、単なる大きさの差だけでなく、音響工学に基づいた設計の工夫が見えてきます。特に管体の構造やキーの配置は、低い音を安定して出すために最適化されています。

管長と穴の配置

イングリッシュホルンの管長は約80cmあり、オーボエの約60cmに比べて20cmほど長くなっています。この長さの差が、低い音域を可能にしています。管が長くなる分、音孔(トーンホール)の間隔も全体的に広めに設計されています。
特に下管(楽器の下半分のパーツ)の穴の配置は、指が届きやすいように人間工学に基づいて工夫されています。オーボエに慣れている人が初めて持つと、少し指を広げる感覚に驚くかもしれませんが、現代の楽器はキーシステムが発達しているため、スムーズに演奏できるようになっています。

ベルとボアの設計差

楽器の内部の空洞を「ボア」と呼びますが、イングリッシュホルンのボアはオーボエよりも太く、緩やかな円錐形を描いています。この太いボアが、イングリッシュホルン特有の豊かな容積を感じさせる音を生み出します。
さらに、特徴的な「電球型ベル」は、音をあえて少しこもらせる効果があります。オーボエのように音がストレートに拡散するのではなく、一度ベルの中で響きが整理されてから外に出るため、あの独特の落ち着いた「ダークな音色」が完成します。

キー配列の違い

キーの仕組みは「コンセルヴァトワール式」という共通のシステムが採用されていることが多いため、基本的な運指は同じです。しかし、イングリッシュホルンは管体が長いため、一部のキーに連絡レバーが追加されていたり、配置が微調整されていたりします。
また、イングリッシュホルンにはオーボエにある「Low Bb」キーがないモデルが一般的です(実音で見ると、もともとオーボエより低い音が出るため不要とされています)。こうした細かなキー構成の差異はありますが、演奏者が迷うほどの大きな変更点はありません。

素材と製法の差

どちらの楽器も、最高級のモデルには「グラナディラ」という非常に硬く密度の高い黒色の木材が使われます。この素材が、木管楽器らしい温かみと芯のある音を作り出します。
近年では、割れを防ぐために合成樹脂を使用したモデルや、内面に樹脂を加工したハイブリッドモデルも人気です。イングリッシュホルンは管体が大きいため、温度変化による割れのリスクがオーボエよりも高くなる傾向があります。そのため、より慎重な乾燥工程や製法が求められる繊細な楽器と言えます。

重量とバランス

オーボエの重量が約600g〜700gであるのに対し、イングリッシュホルンは約1kgから1.2kgほどあります。数字で見るとわずかな差に思えるかもしれませんが、長時間構え続ける演奏者にとっては大きな違いです。
イングリッシュホルンは重心が下の方にあるため、右手親指にかかる負担を軽減するためにサムレスト(指掛け)の位置が調整されています。多くの奏者がストラップを使用するのは、この重量バランスを安定させて、指の動きを自由に保つためです。

耳で判断する 音色と音域の違い

音を聴いて判断する際、最も分かりやすいのは「音の太さ」と「響きの深さ」です。オーボエが空間を切り裂くような鋭さを持っているのに対し、イングリッシュホルンは空間を包み込むような広がりを持っています。

低音域の響き

オーボエの低音域は、非常に力強く、時には力強い「リード楽器らしさ」が強く出ます。それに対し、イングリッシュホルンの低音域は非常に豊かです。チェロの低音のように、温かくふくよかな響きを持っています。
アンサンブルの中でイングリッシュホルンが低い音を吹くと、木管セクション全体の音が一段と厚みを増します。この低音の安定感こそが、イングリッシュホルンがオーケストラにおいて中低域を支える重要な役割を担っている理由です。

中音域の質感

中音域において、オーボエは非常に表情豊かで、旋律を歌い上げるのに最適です。明るい中にも少しの憂いを含んだ、魅力的な質感があります。
一方でイングリッシュホルンの中音域は、ベルの形状の影響もあり、少し鼻にかかったような、心地よい「くぐもり」があります。この質感が、聴く人にノスタルジックな感情を抱かせます。どちらも歌うような表現が得意ですが、オーボエは「若々しさ」、イングリッシュホルンは「大人の落ち着き」を感じさせます。

高音域の明るさ

オーボエの高音域は非常にキラキラとしており、華やかなクライマックスを演出します。非常に高い音でも芯がはっきりしており、遠くまでよく通ります。
イングリッシュホルンの高音域は、オーボエほど突き抜けるような明るさはなく、少し落ち着いた輝きを見せます。高音になってもイングリッシュホルン特有の「柔らかさ」が失われないのが特徴で、オーボエだと少しきつく聞こえてしまう音域でも、イングリッシュホルンなら優しく響かせることができます。

倍音の出方

ダブルリード楽器はもともと倍音(基本の音の上に含まれる高い音)が豊富な楽器ですが、その出方には差があります。オーボエは高次倍音が強調されやすく、これが「エッジの効いた音」として認識されます。
イングリッシュホルンは、管体が太いため低次の倍音が豊かになり、結果として「太く、丸い音」として聞こえます。この倍音構成の違いが、人間の耳に「オーボエは鋭い」「イングリッシュホルンは柔らかい」と感じさせる物理的な正体です。

アンフル部での馴染み方

オーボエは、他の楽器と一緒に演奏した際にも個性がはっきりと際立ち、主役としての存在感を示します。そのため、メロディラインを明確に伝えたい時に重宝されます。
イングリッシュホルンは、フルートやクラリネット、あるいはファゴットといった他の木管楽器の音と非常に馴染みが良いのが特徴です。異なる楽器同士の音を橋渡しするような役割を担い、アンサンブル全体を調和させる「接着剤」のような役割を果たすことも多いです。

奏法で差が出る リードと息づかいの特徴

演奏者にとって、オーボエからイングリッシュホルンへ持ち替える際にはいくつかのコツが必要です。基本的なシステムは同じでも、実際に音を鳴らす感覚には明確な違いが存在します。

リード形状の特徴

イングリッシュホルンのリードは、オーボエのリードをただ大きくしただけではありません。リードの先端から根本までの傾斜や、削り方(スクラップ)のバランスが、より低い音を安定させるために最適化されています。
リードの全長も長いため、振動する部分の面積が広くなります。これにより、オーボエよりもゆったりとした振動を生み出しやすくなります。奏者は自分の楽器やボーカル、そして自分の肺活量に合わせて、リードの開き具合や硬さを微調整する必要があります。

アンブシュアの感覚差

「アンブシュア」とは、楽器を吹く時の口の形のことを指します。オーボエのアンブシュアは比較的タイトで、リードをしっかりと支える感覚が必要です。
それに対してイングリッシュホルンは、リードが大きいため、口の中の空間をより広く保ち、リラックスした状態でリードを包み込むようにします。あまり強く締めすぎてしまうと、イングリッシュホルンらしい豊かな響きが死んでしまうため、柔軟でゆとりのあるアンブシュアが求められます。

息量と支えの傾向

楽器が大きくなれば、それだけ管の中に満たす空気の量も多くなります。イングリッシュホルンを演奏するには、オーボエよりもたっぷりと深い息を送り込む必要があります。
ただし、単にたくさん息を吐けば良いわけではなく、お腹の底からしっかりと支える(サポートする)感覚がより重要になります。オーボエよりも抵抗感が少し緩やかに感じられることが多いため、息のスピードと圧力をコントロールして、音が平坦にならないように維持する技術が必要です。

運指の細かい差

指使いはほとんど共通ですが、イングリッシュホルンの方がキーが大きく、間隔も広いため、正確にキーを押さえるための運指の精度が問われます。
特に速いパッセージ(フレーズ)を吹く際、オーボエと同じ感覚で動かそうとすると、キーの重みや距離の差で指が遅れてしまうことがあります。手の形を丸く保ち、無駄な力を抜いてスムーズに指を動かすトレーニングが必要です。また、ハーフホールの操作なども、楽器のサイズに合わせて繊細な加減が求められます。

持ち替え時の注意点

オーケストラの曲中では、オーボエ奏者が曲の途中でイングリッシュホルンに持ち替える場面が頻繁にあります。この時、最も注意すべきは「ピッチ(音程)感の変化」と「楽器の温度」です。
冷えたイングリッシュホルンは音が低くなりやすいため、出番の前にあらかじめ手や息で管体を温めておく必要があります。また、直前までオーボエを吹いていた口の感覚を、瞬時にイングリッシュホルン用のリラックスした感覚に切り替える柔軟性も、プロの奏者には求められる重要なスキルです。

現場で役立つ 購入と使用のチェックポイント

楽器を購入したりレンタルしたりする際は、それぞれの楽器の特性を理解した上で選ぶことが大切です。特にイングリッシュホルンはオーボエよりも高価になる傾向があるため、慎重な選定が必要です。

初心者向けの見分け方

初めて楽器を手にする方は、まず「管体の状態」と「キーの動き」をチェックしてください。中古品の場合は、特に木部にヒビ(割れ)がないかをライトを当てて確認します。
見分け方のコツとしては、ベルの形はもちろんですが、ボーカル(金属管)が付属しているかどうかを必ず確認しましょう。イングリッシュホルンには欠かせないパーツですが、中古品では別売りになっていることもあります。初心者の場合は、吹きやすさに定評のある大手メーカーのモデルを選ぶのが無難です。

中級者の選定ポイント

中級以上の方は、自分の好みの音色に合う「ボーカル」との組み合わせを試してみてください。イングリッシュホルンは、ボーカルの種類を変えるだけで音程の安定感や音の深みが劇的に変わります。
試奏の際は、全音域で音程がぶれないか、特に高音域のコントロールがしやすいかを確認しましょう。また、第3オクターブキーの有無など、自分の演奏したいレパートリーに必要なスペックが備わっているかも重要なチェックポイントになります。

リードと調整の確認項目

どちらの楽器も、定期的なメンテナンスが欠かせません。特にイングリッシュホルンはキーが長く複雑なため、わずかな調整の狂いが演奏に大きく影響します。
タンポ(穴を塞ぐパーツ)の密閉度は完璧か、ネジの緩みはないかを定期的にプロのリペアマンに診てもらいましょう。また、リードは常に3〜5本は「本番で使える状態」のものをストックしておくのが理想的です。季節や湿度の変化に合わせて、リードの状態も変わることを覚えておいてください。

レンタルと買い取りの判断

イングリッシュホルンは使用頻度がオーボエほど高くない場合もあるため、個人で購入するかレンタルで済ませるか迷うところです。
コンクールや重要な演奏会が続く場合は、自分の口に馴染んだ楽器を所有するメリットは大きいです。一方で、たまにアンサンブルで必要になる程度であれば、メンテナンスが行き届いたレンタル品を利用するのも賢い選択です。買い取りを前提とした長期レンタルプランを提供している楽器店もあるので、予算と相談してみましょう。

録音向けの楽器選び

レコーディングで使用する場合、オーボエはノイズの少なさと音の輪郭の明瞭さが重視されます。イングリッシュホルンは、マイクを通した時に「低音の豊かさがしっかり録れるか」がポイントです。
一部の格安モデルでは、生音は良くても録音すると音が細くなってしまうことがあります。録音用途であれば、管体の密度が高いプロフェッショナルモデルの方が、後から編集した際にも豊かな響きが残りやすく、結果として良い仕上がりになります。

おすすめ紹介

商品名特徴公式サイト
ヤマハ オーボエ YOB-431初心者でも鳴らしやすく、正確な音程が魅力の定番モデル。グラナディラ製で本格的な響き。ヤマハ公式サイト
マリゴ オーボエ 901世界中のプロ奏者が愛用する、オーボエの最高峰。深みのある甘い音色が特徴。野中貿易(正規代理店)
ヤマハ イングリッシュホルン YOB-831豊かな音量と正確なコントロールを両立。吹奏楽からオーケストラまで幅広く対応。ヤマハ公式サイト
ロレー イングリッシュホルン i+3伝統的なパリの響きを持つ名器。表現力の幅が広く、ソロ奏者に人気が高い。ロレー公式サイト

短時間で分かる オーボエとイングリッシュホルンの見分け方

最後に、この2つの楽器を瞬時に見分けるためのチェックリストをまとめました。

  • ベルの形を見る: 朝顔のように開いていればオーボエ、電球のように丸ければイングリッシュホルン。
  • リードの根元を見る: 本体に直接刺さっていればオーボエ、銀色の曲がった管(ボーカル)が付いていればイングリッシュホルン。
  • 全体の長さを比べる: 約60cmの小ぶりな方がオーボエ、約80cmで長い方がイングリッシュホルン。
  • ストラップの有無: 首からストラップを下げて吹いていれば、重いイングリッシュホルンの可能性が高いです。
  • 音の印象で聴く: 明るくはっきりした音がオーボエ、深くて少し寂しげな音がイングリッシュホルン。

このポイントさえ押さえておけば、オーケストラの演奏会でも自信を持って楽器を識別できるはずです。それぞれの楽器が持つ個性を、ぜひ耳と目で存分に味わってみてください。

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この記事を書いた人

バンドや音楽活動が、日常を少し楽しくしてくれる存在だと思っています。
ジャンルや楽器、活動の仕方を眺めているだけでも、世界が広がる感じが好きです。
このブログでは、音楽を始めたい人向けに、選び方や考え方を分かりやすくまとめています。ステージに立つ日も、部屋で音を鳴らす時間も、どちらも楽しい未来になりそうですね。

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